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はちみつの酵素・ジアスターゼ活性値(DN値)とは——数字が語る、蜜の履歴書
こだわりのはちみつの瓶や商品ページに、ときどき見慣れない数字が載っています。「ジアスターゼ活性値 43.5」。読み飛ばされることがほとんどの、この小さな数字。実はこれが、その蜜が採れてからどう扱われてきたかを語る、ほとんど唯一の客観的な証拠です。せっかく良い蜜を選ぼうとするなら、この数字の読み方を知っておいて損はありません。今日は、蜂蜜の世界でいちばん正直な数字の話をします。
一言でいうと
ジアスターゼ活性値(DN値)とは、はちみつにどれだけ酵素が残っているかを表す品質指標です。熱と時間で減ることはあっても増えることはないため、高い数値はそのまま、鮮度と非加熱の証明になります。
この記事でわかること
- ジアスターゼは、ミツバチが蜜づくりの過程で加える酵素。大根おろしや昔ながらの胃腸薬と同じ「デンプンを分解する酵素」の仲間
- この数字は熱と時間で下がることはあっても、上がることは決してない——だから鮮度と加熱の有無を語れる
- 基準は国際規格(CODEX)で8以上、日本養蜂協会の指導要領で10以上。天山蜂蜜の実測値は43.5
- それでも「酵素が生きているから健康に良い」とは、私たちは言いません(その理由も正直に書きます)
その数字は、大根おろしの親戚です
「ジアスターゼ」という言葉に聞き覚えがあるとしたら、たぶん大根です。大根おろしを焼き魚や餅に添えるのは理にかなっている——なぜならジアスターゼというデンプンの消化酵素が含まれているから。そんな話をどこかで聞いたことがあるかもしれません。
ジアスターゼとは、デンプンを糖に分解する酵素(アミラーゼ)の古い呼び名です。一八九四年には高峰譲吉が麹菌からこの酵素を取り出すことに成功し、「タカヂアスターゼ」と名づけました。一世紀以上たった今も胃腸薬の成分として薬局に並んでいるので、名前だけは知らずに飲んでいる方も多いはずです。
そして蜂蜜の世界では、この酵素がまったく別の役割を担っています。品質を測る「ものさし」です。蜂蜜にどれだけジアスターゼが残っているかを測った数字をジアスターゼ活性値(DN値・Diastase Number)と呼び、世界中の検査機関が、蜜の状態を確かめるためにこの数字を使っています。
ミツバチは、蜜に酵素を仕込みながら運ぶ
そもそも、なぜ蜂蜜に酵素が入っているのでしょうか。それは、はちみつが「花の蜜」そのものではないからです。
ミツバチが花から集めてくる蜜は、ショ糖を含んだ薄い糖水にすぎません。ミツバチはそれを体内の蜜胃に蓄えて巣へ運び、仲間へ口移しで受け渡します。この過程で、ミツバチの分泌腺から出る酵素が蜜に混ぜ込まれていきます。ショ糖をブドウ糖と果糖に分解する酵素、糖から抗菌成分を生む酵素——そのひとつがジアスターゼです。蜜は巣板の部屋で水分を飛ばされ、濃縮され、酵素の働きを受けながら、時間をかけて「はちみつ」に変わっていきます。

蜜蓋を切ると滴る完熟蜜。ミツバチが酵素を混ぜ込み、水分を飛ばして仕上げた「巣の中の完成品」。
ここで、正直に書いておきたい面白い事実があります。ジアスターゼが蜂蜜の中で何をしているのかは、実はよく分かっていません。ジアスターゼはデンプンを分解する酵素ですが、蜂蜜にデンプンはほとんど含まれていないからです。仕事相手のいない職人が、なぜか全ての蜜に配置されている——そんな不思議な存在です。
それでも世界中がこの酵素を指標に選んだのには、明快な理由があります。量が測りやすく、そして熱に弱いからです。働きではなく「そこに居ること」に意味がある数字。ジアスターゼは、蜜の来歴を記録する証人として選ばれたのです。
DN値の正体——蜜100gが1時間に分解できるデンプンの量
定義はシンプルです。DN値とは、蜂蜜100gが、40℃で1時間のあいだに分解できるデンプンのグラム数(シャーデ単位)。DN8なら8g、DN43.5なら43.5gのデンプンを分解できる酵素力が残っている、という意味になります。
採れたての蜂蜜は、おおむねDN8を超える酵素力を持っています。ただし数字には生まれつきの個性があり、そばのように高く出る蜜もあれば、アカシアや柑橘のようにもともと控えめな蜜もあります。国際規格が「低酵素蜜は3以上」という例外を設けているのはこのためです。DN値は花の種類が違う蜜同士の優劣を決める数字ではなく、「その蜜が、採れたときの力をどれだけ保っているか」を見る数字——ここは誤解されやすいところです。
この数字は、下がることしかできない
DN値のいちばん大切な性質は、これです。下がることはあっても、上がることは決してない。
酵素はタンパク質でできているため、熱に弱い。高い温度をかければ短時間で失われ、常温でも、年単位の長い保管でゆっくりと減っていきます。そして一度失われた酵素は、二度と蜜の中に戻りません。
つまりDN値は、砂時計のようなものです。巣から採れた瞬間がいちばん多く、あとは扱われ方しだいで減っていく一方。だから高い数字は、それだけで三つのことを同時に証明します。熱をかけていないこと。採れてから時間が経ちすぎていないこと。保管が丁寧だったこと。言葉でならいくらでも「非加熱です」と書けますが、この数字は、蜜が実際にそう扱われてこなければ出せません。

DN値は蜜の砂時計。採れた瞬間がいちばん多く、熱と時間で減っていく一方——だから鮮度と扱いの証明になる。
ちなみに検査機関は、DN値と対になる「上がる数字」もあわせて見ます。HMF(ヒドロキシメチルフルフラール)という、糖が加熱や長期保存で変化してできる物質です。加熱すれば、酵素は減り、HMFは増える。下がる数字と上がる数字の両側から挟めば、蜜がどんな扱いを受けてきたかは、おおよそ隠しようがなくなります。
基準値の地図——8、10、そして43.5
では、いくつあれば「良い」のか。目安になる基準を並べてみます。
| 国際規格 CODEX |
ジアスターゼ活性値8以上。世界の食品規格の土台となる基準です(アカシア・柑橘など、もともと酵素の少ない蜜は3以上とする例外つき) |
|---|---|
| 日本養蜂協会 規格指導要領 |
国産天然はちみつについて10以上。国際規格より一段厳しい、日本の目安です |
| 森羅万象 天山蜂蜜 実測値 |
43.5(2025年採蜜分・日本食品分析センター分析)。国際規格の約5.4倍にあたります |
くり返しになりますが、DN値は蜜の優劣を一列に並べる数字ではありません。それでも、基準の5倍を超える数字が意味することは、はっきりしています。ミツバチが蜜蓋を閉じるまで完熟を待ち、熱をかけず、採れた季節のうちに瓶へ詰めて届けている——その全てが揃わないと、この数字は残らないのです。
それでも「酵素で健康になる」とは、言いません
ここまで読むと、「酵素がたっぷり生きている蜜は、体に良いのでは」と思われるかもしれません。実際、生はちみつの世界では「酵素が生きているから健康に良い」という宣伝文句をよく見かけます。
私たちは、それは言わないことにしています。
業界団体である全国はちみつ公正取引協議会も、こう説明しています——はちみつに含まれる酵素などの成分はもともと微量であり、はちみつの摂取だけでその効果を期待するのは現実的ではない。誠実な答えだと思いますし、私たちも同じ立場です。スプーン一杯の蜜に入っている酵素の量で、体が変わるわけではありません。
それでも私たちがDN値を大切にするのは、この数字が効能の証明ではなく、蜜の「履歴書」だからです。非加熱であること、完熟を待ったこと、鮮度を保って届けたこと。その積み重ねは、加熱した蜜では失われてしまう繊細な香りや、花の個性がそのまま残った味わいとなって現れます。高いDN値は「おいしさの理由が、ちゃんとある」ことの裏づけなのです。
買うときに、この数字をどう使うか
最後に、実用の話を。蜜選びでこの数字を使うなら、見るべきところは三つです。
- 「純粋はちみつ」の表示だけでは、非加熱かどうかは分かりません。加熱していても「純粋」は名乗れます。非加熱・生(ロー)の明記があるかを、まず確認してください
- 採蜜地・採蜜年の開示があるか。DN値は時間でも減るので、「いつ・どこで採れた蜜か」を明かしているかどうかは、鮮度への自信の表れです
- 分析値を開示しているか、聞けば答えてくれるか。ジアスターゼ活性値のような数字の開示がないから悪い蜜、とは限りません。ただ、第三者機関の分析値を進んで開示している作り手は、それだけで信頼のおける相手です
非加熱・完熟・糖度といった、生はちみつ全体の見分け方については「生はちみつとは」で詳しくまとめています。あわせてご覧ください。
森羅万象 天山蜂蜜は、天山山脈の標高2,800mで、年に二週間だけ咲く薬草花・党参(タンスン)から採れる非加熱・完熟の生はちみつです。ミツバチが蜜蓋を閉じるまで待って採った蜜を、熱をかけずにそのまま瓶へ詰めています。ジアスターゼ活性値43.5という数字は、その仕事ぶりを、私たちの言葉の代わりに証明してくれています。
数字は、嘘をつきません。瓶の中で起きてきたことを、瓶を開けずに確かめられるのがこの数字です。だから私たちは、この小さな数字を、隠さずに公表することにしています。
出典・参考: CODEX STAN 12-1981(国際食品規格・はちみつ)/一般社団法人日本養蜂協会「国産天然はちみつの規格」/全国はちみつ公正取引協議会 公式FAQ/日本食品分析センター 分析結果(2025年採蜜分・ジアスターゼ活性値43.5)