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薬草花タンスン(党参)とは——年に二週間だけ咲く天山の花
はちみつの個性は、蜜源——つまり「どの花から採れたか」で決まります。アカシア、レンゲ、クローバー。日本でおなじみの蜜源の名前に、「タンスン」が並ぶことはまずありません。森羅万象 天山蜂蜜の蜜源であるこの花は、日本ではほとんど知られていない、天山の草原にひっそりと咲く薬草花です。
一言でいうと
タンスンとは、漢字で「党参」と書くキキョウ科のつる性植物で、その根は古くから「気を補う」生薬として人参に並び称されてきました。森羅万象 天山蜂蜜は、天山山脈・標高2,800mの草原に年およそ二週間だけ咲くこの花を蜜源としています。
党参(トウジン)とは——「参」の名を継いだ、キキョウ科の薬草

「参」という字を名乗ることを許された植物は、そう多くありません。人参(朝鮮人参)はウコギ科。いっぽう党参は、まったく別のキキョウ科のつる性植物です。科も姿も違うのに同じ「参」の字を戴くのは、その根が人参に似て太く、同じように大切に扱われてきたから。名の由来は、中国・山西省の上党(じょうとう)地方に良い根が産したことにあると伝えられています。
根は生薬「党参」として知られ、人参よりも穏やかに「気を補う」とされて、日々の暮らしのなかで庶民に親しまれてきました。中国では不老長寿の薬草として重宝されてきた歴史をもちます。高価な人参にはなかなか手が届かない人々にとって、党参は「暮らしの中の参」だったのです。
私たちの蜜の蜜源となるのは、この党参が夏に咲かせる釣鐘状の花。栽培されたものではなく、天山山脈の草原に自生する野生の党参です。農業とは無縁の土地で、人の手を借りずに芽吹き、花を開きます。
日本の薬学者たちも、この花を記録していた
天山の党参には、日本の学術調査の記録が残っています。生薬研究の第一人者として知られる薬学者・難波恒雄博士と池上正治氏が、天山山脈の薬草調査をつづった紀行『天山山脈薬草紀行』(平凡社、2001年)です。
調査団は天山北路の果子溝(グオズゴウ)で、キキョウ科の党参の仲間コドノプシス・クレマティデア——現地で「新疆党参(しんきょうとうじん)」と呼ばれる植物——の自生を確認し、「根を『新疆党参』と称し、漢薬、党参の代用とする」と記しています。同書によれば、この天山の党参は高さ50〜100cmの蔓性の多年草。花は紫色、鐘状筒型で長さ2cm、先端は五つに裂ける——上の写真の花、そのままの姿です。
海抜2,000mを超える高原では、馬でなければ入れない草の海に「紫色の花をつけたトウジン」が咲き、その眺めを調査団は「絵具箱をひっくり返したかのよう」と書き残しました。専門家でない同行者の目にも党参が見分けられたほど、天山の夏の草原はこの花に彩られていたのです。
薬学者たちが「薬草の宝庫」として調査に訪れた山脈——タンスンはその天山を代表する薬草のひとつであり、私たちの蜜は、その花だけから生まれます。
開花は、年にわずか二週間

党参の開花期間は、年間でわずか二週間ほどしかありません。ミツバチたちがタンスンの花蜜を集められるのは、一年のうちこの短い季節だけ。だから森羅万象 天山蜂蜜は、つくろうと思って増やせない、正真正銘の数量限定のはちみつです。
短い開花に間に合わせて巣箱を運び、ミツバチが蜜を集め、巣に蜜蝋の蓋をするまで待って採蜜する——一年分の仕事が、この数週間に凝縮されています。希少性の背景は「数量限定・年2週間の採蜜」でも詳しくご紹介しています。
標高2,800m——タンスンが咲く土地
タンスンが自生するのは、天山山脈の標高2,800mに広がる草原地帯です。天山山脈は、ゴビ砂漠とタクラマカン砂漠のあいだに横たわる山岳のオアシス。現地のウイグル語では「テンリ・タグ=天の山」と呼ばれ、漢名の「天山」はこれに由来します。2013年には、この山系の保護区がUNESCOの世界自然遺産に登録されました。
朝には燦々と太陽が降りそそぎ、夜には月の光が降り立つ大地。高い山々の雪解け水が、幾重にも重なる地層を巡って湧き出す場所。カザフ族やキルギス族、モンゴル族などの遊牧民が古くからの暮らしを続け、毎朝の食卓には壺に入ったはちみつが並びます。
日本からこの草原へたどり着くには、北京を経由して新疆ウイグル自治区のウルムチへ飛び、小型機に乗り継ぎ、さらにオフロード車で草原を走って——およそ3日を要します。この旅路は「天山蜂蜜の物語」で地図とともにご覧いただけます。
ちなみに先の『天山山脈薬草紀行』には、天山の蜂蜜も登場します。山道では1〜2kmごとに道端に蜂蜜売りの棚が現れ、調査団は「ハチミツが天山の特産であることは承知していた」と記し、買い求めた蜜を「生産者が保証するだけのことはあり、味のよいハチミツだった」と書き残しました。天山は、薬草と蜂蜜の山——四半世紀前の日本の調査団も、私たちと同じことをこの土地で見つけていたのです。
タンスンの蜜は、どんな味か
タンスンから採れた完熟蜜は、濃厚でありながら後味がすっきりとした、上品な甘さが特徴です。お客様からは「甘ったるく口に残らない」「生キャラメルが溶けたよう」といった声をいただいています(お客様の声)。
年に二週間だけの花と、それを待つミツバチと人。この蜜がもつ静かな豊かさは、天山の自然がそのまま瓶に入ったものだと、私たちは考えています。
出典・参考: 難波恒雄・池上正治『天山山脈薬草紀行』(平凡社、2001年)p.84・87・89・112、および巻末「本書に登場する薬草・生薬類」。引用は同書より